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散乱される電波は波浪の位相速度に対応したドップラシフトを受け、ドップラスペクトル上、正負対照に鋭い二つのピークを生ずる。正のドップラシフトはレーダーに近ずく波浪、負のドップラシフトはレーダーから遠ざかる波浪に対応する。波浪は表層の海流に乗っているので、海流のレーダービーム方向成分によりドップラ周波数のずれを生ずる。従って、離れた位置にある2台のレーダーが使用できれば海流ベクトルを観測できる。

 

海洋波浪パラメータ(波高、周期、スペクトル)は、二次の散乱情報から算出する。二次の散乱波というのは、一次の散乱波が再び波浪で散乱を受けたものである。このほか多重散乱波もあるが観測にかかるのは高々二次までである。二次散乱によるスペクトルは一次のスペクトルの周りに幅の広い分布として観測される。二次散乱のスペクトルは、全ての波長の波浪の影響を受けることから波浪全体のエネルギー(波高)を算出できる。波の周期、スペクトルは二次散乱の位置、パターン等から算出しうる。これら波浪パラメータの計算はかなり複雑である上、未だ確立されたものとは言えない。

 

短波海洋レーダーは、パルス方式とFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)方式のものがある。アンテナは多数の素子アンテナでフェイズドアレイを構成し、ビームを左右に振る方式と、方向探知器のように直交する二つのループアンテナを使用する方式等がある。前者は場所をとるがビーム幅は狭く、後者は場所はとらないがビーム幅は広い。アンテナのビーム幅は、測定精度に関係するのでフェイズドアレイ方式が優れているとされる。(12)

通常スペクトル解析は専用のFFT(Fast Fourier Transform)処理器で実行され、この出力を汎用の処理装置(パソコン等)で処理して必要な波浪情報を得る。装置の有効距離範囲は20km〜100km、距離分解能は1km〜2km程度である。使用周波数が低いほど有効距離がのびるが、アンテナが大きくなる。周波数が高いほど有効距離は短くなるが、アンテナは小型で場所をとらないし、空間的な分解能も良くなる。しかし、周波数割当の問題から周波数選択の自由度は小さい。

 

短波海洋レーダーを現業に使うには、次のような問題を検討する必要がある。

・無線局の免許取得が可能か?

・測定される諸量の精度。

文献(14)によれば、短波海洋レーダーの測定精度は表1.1.4−1のようである。所要観測時間は、CODAR方式では約30分、フェーズドアレイ方式のレーダーで約2分とされる。

 

短波海洋レーダーの使い分け方法として、フェーズドアレイ方式のレーダーは高精度、高時間分解能の用途に、CODAR方式は狭い海域の観測用途が挙げられている。短波海洋レーダーの観測範囲は使用する周波数、アンテナの高さ、レーダーの方式により異なるが、沿岸から50浬以内である。また、2台のレーダーを使用して流向などを測定する場合のレーダー間隔は25浬程度となる。

 

 

 

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